前脚が着地し、グリップがトップの位置に入ると、スイングが始まります。この時点での状況を考えてみましょう。
まず上半身では後肩と前腰の対角線上で筋肉が引き伸され、その反射で収縮するのですから、トップハンドを写真のような軌道で振り下ろす事になります。
下半身はというと、両脚は屈曲した状態で、落下してくる自体重の負荷を受け止めて、伸展しようとするエネルギーが溜められています。もちろん、この直後から受け止めた負荷を押し返そうとして両脚は地面を押す事になります。
つまり、前脚が着地するやいなや、上半身では対角線のラインに沿ったトップハンドの振り下ろしが起こり、下半身では自体重の負荷を押し返そうとして、下半身が地面を押すわけです。
この事を実験したのが下の写真です。(1)骨盤をやや投手方向に向けたトップを作ります。(2)スクワットのように、沈み込んで下半身に体重をかけます。(3)股関節の伸展を中心に、自体重の負荷を押し返すようにして地面を押すと同時に、バットを後肩から前腰の対角線のラインで振り下ろします。(この時、バットを「振る」のでは無く、刀のように「振り下ろして」、腕が伸びるあたりで止めます。)
まず特筆されるべき点として、下半身は地面を押すという鉛直軸方向の運動を行なっただけであるのにも関わらず、腰が回転しているという点です。良く言われる、骨盤を回すだとか、股関節の捻りだとかは結果に過ぎないのです。この実験ではあくまでも地面を垂直真下に押す以外の事はしないで下さい。
そして、もちろん実際のバッティングでは、地面を押すという運動すら無意識下で起こります。ですから、バットを出す事を考えるだけで良いのです。もちろん、無意識下で起きるのですが、地面を押したという感覚は残ります。ですから「オートマチック」に起きると言った方が良いかもしれません。
そして上半身を見ると、トップの時点で引き伸された筋肉が収縮するのですが、無意識下で引き伸された筋肉は無意識下で収縮します。これを「伸張反射」と呼びます。例えば、居眠りをしていて、カクンと落ちた首が跳ね上がるのも、伸張反射の一種です。伸張反射というのは大脳からの指令で起きる通常の筋収縮と異なり、力を込めるという感覚を必要としません。あくまでも筋肉がオートマチックにやっている事ですから、この反射機能を上手く使えれば、本人としては「筋肉達ががんばって仕事をしている様子を丘の上からお茶でも飲みながら眺めるような余裕」が有る訳です。この余裕が柔軟性とか対応能力に繋がってくるわけです。
ここまで述べて来て、とんでも無い事に気がつかされます。つまり始めから終わりまで、意識的に筋肉を収縮させるという局面が無いという事です。もちろん、始めにバットを出そうとする事は意識的に筋肉を収縮させようとしている事と同じです。ところが、その結果、無意識下で下半身が出力し、バットを出すために必要な筋肉を引き伸した結果、バットを出すという運動が伸張反射を利用した無意識下の筋収縮に変換されてしまうのです。
そして始動時における下半身の出力を大きく求めるためにはバットを速く出す、つまりボールを強く打とうとする事が大切なのです。下半身の出力が大きく、全身がリラックスされて、バランスが取れれば、自然に素晴らしいフォームになります。仮に今はまだ上手くなくても、それを繰り返せば、動きは洗練されて行きます。ですから、速く振る、強く打つという事が技術論上で最も大切になってくるのです。
バットを出してボールを打とうとするだけで、全ての動きはオートマチックに起きる。 というメカニズムについてご理解頂けたでしょうか。勿論こんな事を言っている人は他には居ませんし、数値を持って実証された分けでもありません。オートマチック=自然である=本来あるべき姿=すなわち理想像と考えているわけです。ここでの説明は省略気味にしましたが、詳しくは本の方を読んで下さい。